メディフォードでは、非臨床毒性試験にマイクロサンプリングを導入し、動物実験の3Rに配慮しています。
マイクロサンプリングは、少量の血液サンプルを採取し、薬物濃度測定を行う技術です。
従来法より使用動物数を減らせることで、必要な被験物質量を削減し、トータルコストを抑えることが期待できます。
近年、動物福祉が世界的に注目され、医薬品開発においても3R(Replacement: できる限り動物を供する方法に代わり得るものを利用すること、Reduction: できる限りその利用に供される動物の数を少なくすること、Refinement: できる限り動物に苦痛を与えないこと)に配慮する取り組みが進んでいます。
また、米国では新薬開発における動物実験の義務付けを撤廃する新法律FDA近代化法2.0が施行され、今後動物実験の実施が漸減することが予想されますが、全ての動物実験を撤廃できるかは明らかではありません。
その中で注目されているのが、少量の血液を採取するマイクロサンプリング(MS)です。
この手法はICH S3A Q&Aにより規定されており、通常50µL以下での採血を指します。非臨床毒性評価におけるMS導入の背景として、質量分析計などの機器分析感度の上昇により、より少量の血液サンプルを用いて薬物濃度を測定することが可能となったことが挙げられます。
現在、げっ歯類を用いた非臨床試験における一般毒性試験においては、主試験動物(毒性評価動物)に加えて、採血のみを行うサテライト動物を設けることが一般的です。
一方で、主試験動物からMSにより試料を採取し、トキシコキネティクス(TK)評価を行うことにより、毒性評価値とTK値との個体毎の関連性解析が可能となり、またサテライト動物数の削減あるいは全廃や採血量減少により3Rへ貢献ができます。さらに、使用動物数を減らすことにより、必要被験物質量を抑えることができ、開発コストの圧縮が期待されます。
一例としてラット2週反復投与毒性試験にMSを適用する試験デザインをご紹介します。
従来法では、毒性評価群の1群につき雌雄各5匹、TKサテライト群の1群につき雌雄各4匹使用するのが標準的です。
MSを適用した場合、毒性評価群から採血を行うため、TKサテライト群の動物を無くすことが可能です。
その結果、使用する被験物質量を44%削減することが可能となります。
用量 | 従来法 (72匹使用) |
マイクロサンプリング適用 (40匹使用) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
毒性評価群 | TK群 | 毒性評価群 | TK群 | |||||
雄 | 雌 | 雄 | 雌 | 雄 | 雌 | 雄 | 雌 | |
0 mg/kg | 5 | 5 | 4 | 4 | 5 | 5 | 0 | 0 |
100 mg/kg | 5 | 5 | 4 | 4 | 5 | 5 | 0 | 0 |
300 mg/kg | 5 | 5 | 4 | 4 | 5 | 5 | 0 | 0 |
1000 mg/kg | 5 | 5 | 4 | 4 | 5 | 5 | 0 | 0 |
必要被験物質量* 73g → 41g
*: ロス分を含まない理論値
6週齢雌のCrl:CD(SD)ラットの鎖骨下静脈からMS採血するMS群と、採血を行わない非採血群に分け、免疫毒性物質であるアザチオプリンをそれぞれの群に0、3及び10 mg/kg/dayの用量で4週間反復経口投与を行いました。初回投与時に6時点、最終投与時に7時点のTK測定用の採血(50 µL/時点)を行いました。
投与期間中に一般状態観察、体重及び摂餌量測定、尿検査を行い、最終投与後24時間のTK採血翌日(第30日)に血液学的検査、血液生化学的検査、病理解剖検査、臓器重量測定、病理組織学的検査を行いました。
得られた結果について、アザチオプリン投与群と対照群との比較、MS群と非採血群の同一用量間での比較を行いました。また、初回投与時と最終回投与時にMS群より採取したサンプルを用いてTK測定を行いました。
Test article | Dose level (mg/kg) |
Dose volume (mL/kg) |
Dose conc. (mg/mL) |
Number of animals |
---|---|---|---|---|
< Non-blood sampling group > | ||||
Control*1 | 0 | 5 | 0 | 5 |
Azathioprine | 3 | 5 | 0.6 | 5 |
Azathioprine | 10 | 5 | 2 | 5 |
< Microsampling group > | ||||
Control*1 | 0 | 5 | 0 | 5 |
Azathioprine | 3 | 5 | 0.6 | 5 |
Azathioprine | 10 | 5 | 2 | 5 |
*1: Control (0.5 w/v% MC)
アザチオプリン投与による影響としてMS群及び非採血群でWBC、Lymphocyte、Eosinophil、Monocyteの低値が認められました。
MS群では非採血群に比較し、赤血球系パラメータの統計学的な有意差(図の赤丸)が認められましたが、数値は施設背景データの範囲内でした。つまり、MS群と非採血群の同一用量間の比較において、明らかな差は認められませんでした。
アザチオプリン投与の影響はMS群と非採血群で同等に認められました。また、MS群では非採血群と比較して、10 mg/kg群で総蛋白及びアルブミンの統計学的に有意な低値、3 mg/kg群でA/G、アルブミンの統計学的に有意な低値、α1グロブリンの統計学的に有意な高値、対照群ではカルシウムの統計学的に有意な高値が認められましたが(図の緑丸)、これらの変化は施設背景データの範囲内でした。
アザチオプリン投与による影響として、MS群及び非採血群で胸腺重量の低値、胸腺の小型化、胸腺皮質のリンパ球減少が認められました。MS群のみで認められた変化はありませんでした。
Non-blood sampling group | MS group | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Dose level (mg/kg) | 0 | 3 | 10 | 0 | 3 | 10 | |
Organ weight-body weight ratio | |||||||
Thymus | (mg) | 416.0 | 380.1 | 206.33## | 484.9 | 438.6 | 266.1## |
(10-3%) | 190.93 | 175.44 | 97.08## | 224.17 | 199.26 | 129.89## | |
Macroscopic Findings | |||||||
Thymus | Small | 0/5 | 0/5 | 3/5 | 0/5 | 0/5 | 3/5 |
Macroscopic Findings | |||||||
Thymus | Decrease, Cortex, Lymphocyte | 0/5 | 0/5 | 3/5 | 0/5 | 0/5 | 3/5 |
V.S. Control: #P<0.05, ##P<0.01
アザチオプリンは生体内で速やかに6-メルカプトプリンに代謝されるため、代謝物である6-メルカプトプリン濃度を測定しました。
血漿中6-メルカプトプリン濃度は、投与用量依存的に増加し、反復投与による影響は認められませんでした。MSにより採取した血漿サンプルを用いて、適切にTK測定をすることができました。
アザチオプリン投与による影響は血液学的検査、血液生化学検査、病理学的検査で非採血群とMS群で同様に認められました。
また、MS群と非採血群の同一用量間の比較では、明らかな差は認められませんでした。以上の結果から、ラットの一般毒性試験にMSを用いても、免疫毒性物質であるアザチオプリンによる影響を正確に評価することができました。
A. 適用可能です。ICH S3A Q&Aに収載されている手法ですので、IND/NDA申請に問題はありません。
A. 赤血球数など多少の変動はございますが、対照群からも採血するため、対照群と比較する上で影響はなく、施設背景データの範囲内の軽微な変動となりますので、毒性評価上影響はございません。
A. 50 µLの血液から10~20 µLの血漿サンプルを採取できます。
そのままでもTK測定は可能ですが、必要に応じて血漿を希釈し、測定に供するサンプル量を確保することもございます。なお、その際は追加のTKバリデーションを行います。
A. マウスは循環血液量が少なく、MSの影響が出やすいため、適用は困難です。
基本的にはラットを使用した毒性試験への適用を想定しております。
A. ラットの循環血液量を64 mL/kg*と仮定した上で、24時間中の総採血量を循環血液量の3%以内に抑えるとMSによる影響が少なくなります。
*: Diehl et al., J Appl Toxicol. 2001
A. 個別にお問い合わせいただけますと幸いです。